- MS1500:2019では豚農場からの隔離・と殺施設のハラル専用化・礼拝スペース設置が義務
- インドネシアPP42/2024はと殺から提供まで全7工程で分離を要求、と殺場の壁は最低3m
- ナジスラインからハラルラインへの転換は不可逆。再度ナジスラインに戻すことはできない
- GHP/GMP/HACCPの衛生管理体制が前提。ISO9001取得済みの工場は移行がスムーズ
- ムスリム人材の配置は国ごとに異なり、インドネシアはスーパーバイザー最低1名が必要
ハラル認証工場とは|求められる全体像
ハラル認証工場とは、原材料の受入から製品の出荷まで、製造工程全体でイスラム法への適合性(ハラル性)が確保された工場のことです。(2026年3月時点の情報です)
ハラル認証は単なる成分チェックではなく、施設・設備・人員・衛生管理を含む工場全体の仕組みが審査対象となります。工場のハラル対応は大きく以下の5つの領域に分かれます。
| 対応領域 | 主な要件 | 根拠規格 |
|---|---|---|
| 1. 施設設計・配置 | 豚関連施設からの隔離、ハラル専用エリアの確保 | MS1500:2019, PP42/2024 |
| 2. 製造ラインの分離 | 全7工程での非ハラル製品との物理的分離 | PP42/2024 |
| 3. 器具・機器の管理 | ナジス材料禁止、セルトゥ洗浄、不可逆転換ルール | MS1500:2019 |
| 4. 人員体制 | ムスリム人材の任命・配置 | 各国規格 |
| 5. 衛生管理の前提 | GHP/GMP/HACCP準拠 | MS1500:2019, SJPH |
以下、各領域の具体的な要件と実務上のポイントを解説します。
ステップ1:施設設計と配置の要件
施設設計の要件とは、ハラル工場の立地・建物構造・エリア配置に関する基準のことです。マレーシアMS1500:2019とインドネシアPP42/2024の両方を満たす設計が、東南アジア輸出を見据えた工場には求められます。
MS1500:2019の施設基準
マレーシアの国家規格MS1500:2019では、以下の施設要件が定められています。
- 豚農場・豚加工施設からの隔離:工場は豚関連施設から効果的に隔離・絶縁されていること
- と殺・加工施設のハラル専用化:と殺場および加工施設はハラル製品専用でなければならない
- 礼拝スペースの設置義務:ムスリム従業員が礼拝を行うためのスペースを工場内に確保すること
これらは最低限の要件です。「効果的な隔離」とは、単に距離を取るだけでなく、空気の流れや排水経路も含めて豚由来の汚染リスクがない状態を指します。
PP42/2024の施設分離基準
インドネシアの政令PP42/2024では、より具体的な数値基準が示されています。
- と殺場の壁:最低3メートルの高さが必要
- 共用施設の制限:共用施設では豚肉および豚由来物質の使用が一切禁止
- 器具の共用禁止:ハラル製品と非ハラル製品で器具の共用・交互使用は認められない
- 洗浄・メンテナンス:洗浄設備やメンテナンス施設も別途確保が必要
日本の食品工場で豚肉を一切扱っていない場合でも、同じ敷地内に豚肉を扱うテナントがある場合は注意が必要です。
ステップ2:製造ラインの分離設計
製造ラインの分離設計とは、原材料の受入から最終製品の出荷まで、ハラル製品が非ハラル製品と物理的に交差しないようラインを設計することです。
PP42/2024が定める7工程の分離
PP42/2024では、以下の全7工程でハラル製品と非ハラル製品の分離が求められます。
| 工程 | 分離の具体的内容 |
|---|---|
| 1. と殺 | と殺場は完全分離。壁の高さ最低3m |
| 2. 加工 | 加工ラインの物理的分離。器具の共用禁止 |
| 3. 保管 | 原材料・中間品・完成品の保管エリアを分離 |
| 4. 包装 | 包装ラインの分離。包装材もハラル性を確認 |
| 5. 流通 | 輸送手段(コンテナ・トラック)の分離 |
| 6. 販売 | 販売エリアでの物理的な隔離 |
| 7. 提供 | レストラン等での提供時も分離が必要 |
食品メーカーとしては、特に1〜5の工程が直接関係します。「保管」の分離は見落としやすいポイントで、冷蔵庫・冷凍庫・常温倉庫それぞれでハラル専用エリアを確保する必要があります。
ライン設計の実務ポイント
既存工場をハラル対応にする場合、以下の点を検討してください。
- ゾーニング:工場フロアをハラル専用ゾーン・非ハラルゾーン・共用ゾーンに区分する
- 動線の分離:原材料の搬入経路から製品の搬出経路まで、ハラル製品の動線が非ハラル製品と交差しないよう設計する
- 色分け管理:器具やコンテナをハラル用・非ハラル用で色分けし、誤使用を防止する
- 排水経路:ハラルエリアの排水が非ハラルエリアの排水と合流しない設計にする
製造ラインの分離に必要な投資規模は工場の規模や既存設備によって大きく異なります。費用面の詳細は「ハラル認証の費用相場|認証機関別の料金比較」を参考にしてください。
ステップ3:器具・機器の管理要件
器具・機器の管理要件とは、製造に使用するすべての器具・設備がハラル基準に適合し、交差汚染のリスクがない状態を維持するためのルールのことです。
器具の素材と使用制限
MS1500:2019では、器具に関して以下の基準が定められています。
- ナジス材料の禁止:ナジス(不浄物)と判定される材料で製造された器具は使用できない
- 動物毛ブラシの禁止:洗浄用ブラシなどに動物の毛を使用したものは禁止。合成繊維製に切り替える
- 器具の専用化:PP42/2024では器具の共用・交互使用が全面禁止されている
セルトゥ洗浄の手順
セルトゥ(Sertu)とは、犬・豚由来の汚染(ナジス・アル=ムガッラザ)が疑われる器具に対して行う儀式的洗浄のことです。
セルトゥ洗浄の具体的な手順は以下のとおりです。
- 水で7回洗浄する
- うち1回は土(粘土)を混ぜた水で洗浄する
- すべての洗浄が完了した後、通常の衛生管理手順に従って最終洗浄を行う
ただし、セルトゥ洗浄はあくまで「転換時の処置」です。日常的にナジス汚染が発生する環境では、セルトゥ洗浄では対応できません。
ライン転換の不可逆ルール
MS1500:2019の重要な規定として、ナジスラインをハラルラインに転換した後、再度ナジスラインに戻すことは認められていません。これはハラルの品質保証における根本的な考え方であり、「一時的にハラル対応にして、後で元に戻す」という運用はできません。
製造ラインのハラル転換を検討する際は、将来の製品計画も含めて慎重に判断する必要があります。
ステップ4:ムスリム人材の配置と体制構築
ムスリム人材の配置とは、ハラル認証の取得・維持に必要なムスリム従業員を確保し、ハラル管理体制を構築することです。国によって求められる人数や役割が異なります。
国別のムスリム従業員要件
| 国 | 要件 | 備考 |
|---|---|---|
| マレーシア | 正社員でマレーシア国籍のムスリムを雇用 | ハラルエグゼクティブはイスラム教徒であること |
| インドネシア | ハラルスーパーバイザー(ムスリム)最低1名 | 中規模以上・外国企業は研修証明書+職能証明書が必要 |
| シンガポール | 各施設に最低2〜3名のムスリムスタッフ | チームリーダーはムスリムでなくてもよい |
日本国内の工場でハラル認証を取得する場合、在日ムスリム(約42万人)の中から人材を確保するか、IHATEC(インドネシア・ハラール研修教育センター)等の外部研修を活用して社内人材を育成する方法があります。外部研修費用は890USD/名が目安です。
SJPH(ハラル製品保証基準)5基準
インドネシア向けの認証ではSJPH(Sistem Jaminan Produk Halal)と呼ばれる5つの基準を満たす必要があります。工場の体制構築において特に重要な基準です。
- コミットメントと責任:ハラル管理チームの設立、年1回以上の研修を実施
- 原料管理:原材料・添加物・加工助剤・包装材・機械用グリース・消毒剤すべてが対象
- ハラル生産プロセス:共用施設では豚肉・豚由来物質の使用不可
- 製品管理:非ハラル商品と間違え得る名称の禁止、トレーサビリティの確保
- モニタリングと評価:年1回以上の内部監査とマネジメントレビューの実施
SJPH基準の運用について詳しくは「食品メーカーのハラル認証ガイド」も参照してください。
ステップ5:衛生管理体制(GHP/GMP/HACCP)の整備
衛生管理体制の整備とは、ハラル認証の前提となるGHP・GMP・HACCPなどの既存の食品安全管理システムを確立することです。
MS1500:2019では、GHP(適正衛生規範)、GMP(適正製造規範)、VHP、またはMS1514/MS1480に準拠した衛生管理がハラル認証の前提条件とされています。ハラル認証は食品安全の仕組みの「上に」構築されるものであり、基盤がなければ認証は取得できません。
HACCP・ISO取得済み工場のメリット
各国のハラル認証規格はISO9001やHACCPをベースに作成されています。そのため、既にこれらを取得済みの工場はハラル認証への移行が大幅に容易です。具体的には以下の点が有利に働きます。
- 品質管理マニュアル・製造フロー図などの文書がすでに整備されている
- CCP(重要管理点)の考え方がハラル管理のHCP(ハラル管理点)と親和性が高い
- 内部監査・マネジメントレビューの仕組みがSJPH基準の要件と重なる
- トレーサビリティの仕組みが原材料のハラル性追跡に活用できる
HACCPとハラル認証の関係について詳しくは「ハラル認証とHACCPの違い|食品メーカーが知るべき比較ポイント」で解説しています。
よくある質問(FAQ)
既存の工場をハラル対応にすることはできますか?
可能です。ただし、豚肉や豚由来成分を扱っている製造ラインをハラルラインに転換する場合、セルトゥ洗浄(水7回、うち1回は土混じり水で洗浄)が必要です。また、転換後に再度ナジスラインに戻すことはMS1500:2019で禁止されているため、将来の製品計画も考慮して判断してください。
ハラル製品と非ハラル製品を同じ工場で製造できますか?
条件付きで可能です。PP42/2024では、共用施設において豚肉・豚由来物質の使用が禁止されています。豚を扱わない前提で、製造ライン・保管エリア・器具をハラル用と非ハラル用に完全分離すれば、同一工場での製造は認められます。
ムスリム従業員がいない場合はどうすればよいですか?
インドネシア向け認証ではハラルスーパーバイザーとしてムスリムが最低1名必要です。在日ムスリム(約42万人)から採用するか、IHATEC等の外部研修(費用890USD/名)を活用して資格を取得する方法があります。シンガポール向けでは2〜3名のムスリムスタッフが求められます。
HACCP取得済みならハラル認証は取りやすいですか?
はい。各国のハラル認証規格はISO9001やHACCPをベースに作成されています。品質管理マニュアル・製造フロー図・内部監査の仕組みなどがすでに整備されているため、ハラル認証への移行がスムーズです。ハラル固有の要件(製造ラインの分離、セルトゥ洗浄、ムスリム人材配置など)の追加対応が主な作業になります。
セルトゥ洗浄はどのような場合に必要ですか?
セルトゥ洗浄は、犬や豚に由来する汚染(ナジス・アル=ムガッラザ)が疑われる器具・設備に対して必要です。水で7回洗浄し、うち1回は土(粘土)を混ぜた水で洗浄します。新規にハラル専用設備を導入する場合は、セルトゥ洗浄は不要です。
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まとめ
ハラル認証工場の要件は、施設設計・製造ライン分離・器具管理・人員体制・衛生管理の5つの領域に分かれます。
- MS1500:2019では豚関連施設からの隔離、と殺施設の専用化、礼拝スペースの設置が義務
- PP42/2024ではと殺から提供まで全7工程で物理的分離が必要
- ナジスラインのハラル転換は不可逆。セルトゥ洗浄による初回転換のみ可能
- HACCP・ISO取得済みの工場は既存の品質管理基盤を活かせる
まずは自社工場の現状を5つの領域でチェックし、ギャップを洗い出すところから始めましょう。インドネシア向け輸入食品の義務化期限(2026年10月)が迫っているため、「インドネシアのハラル認証義務化」も併せて確認してください。


